リトル・ミス・サンシャイン

まだ6月入ったばかりなのに蒸し暑くて毎日雑巾のようにぐったりしているので、
元気の出る映画を観よう!ということで、「リトル・ミス・サンシャイン」。(ネタバレあるよ)

末娘の美少女コンテスト出場のために一家総出でカリフォルニアを目指す話。
まあ家族再生の物語なんでしょう。でもなんだかその言葉を使うとありきたりな印象になってしまう気がして。
崩壊してるっていうより、エゴが強すぎて協調性のない家族。
おとうさんはフリーで自己啓発の仕事をしている。上から目線で他人に攻撃的だけど、いざというときはブレずに意思を通す強さがある。
お兄ちゃんは、中二病まっただ中のひきこもりだけど、一番観察力があって鋭い。
おじいちゃんはまあ、口が悪いし自分勝手だし、女漁りとヘロインが大好きで老人ホームを追放されるほどのアウトローだけど、
すごく情に厚いし熱血なのです。
ドロップアウトの寄せ集めみたいな家族をまとめるのに苦労している、唯一常識人なお母さん。
そんな家族が、ぽっちゃりめの幼い末娘・オリーブをそれぞれに庇護している様子がとても愛しいのです。なんやかんや言ってみんな根はやさしくて善良で、それが、余裕のない毎日ですれ違ってしまっているだけ。
そんな家庭に、ある日自殺未遂を起こしたゲイのおじさん(お母さんの弟)がやってきて、カリフォルニアに同行することに。

何だろう、この映画、良いことは何一つ起こりません。
カリフォルニアへの道中だって、悲劇とトラブルの連続ですし、最終的にミスコンも大失敗に終わります。
まあこういう失敗談がコメディとしておもしろいので、全編通して結構笑えるのですが、
この物語が安易な負け犬讃歌に堕ちていないのは、
お兄ちゃんの「ミスコンなんてクソだと思わないか。人生なんてクソみたいなミスコンの連続だ」っていう台詞に尽きるんじゃないでしょうか。
結局、私たちは形式的な評価を受け続けなければこの社会で生きていけない。
嫌でもそのコンテストから逃げられないのだという乾いた視点が、この映画の根底にある。
でも、つまらない常識や決まり事にとらわれて、ただ負けるのを怖がっていては、生きている意味なんてないんじゃないか、満面の笑顔で踊るオリーブがそんな気にさせてくれる。
オリーブはステレオタイプな無垢な子供として描かれているけど、このアクの強い家族の救済の天使でもあるので、
そういう描き方で正しいような気がする。
そしておじさんが良い。彼は一度人生から退場した人間で、他と違って相対的な勝ち負けの埒外にいるキャラクターなのがおもしろい。
キリスト教的には同性愛は地獄行きなんだっけ?そこんとこ詳しくないですが多分そういうのも含めて、マイノリティとしての孤独を背負ってる。
生きることにも死ぬことにも絶望している彼が、
「僕も天国に行けるかな?」とたずねてオリーブに肯定される様が、すごくイノセントで素敵でした。
冒頭でお兄ちゃんがおじさんを迎えて「地獄へようこそ」という場面がありますが、それがここの伏線になっている、ドタバタの連続に見えて凝った脚本です。
そしてそんな彼だからこそ、人生を斜に見ているお兄ちゃんを救うことができたんだと思う。
何一ついいことは起らない話だけどこんなに爽快なのはなぜなんだろう。
家族六人がそれぞれを決して見捨てず、納得いくまで目的をやり遂げたことで結びついた彼らが、とても幸せそうだからでしょうか。
負け戦は個々人においては決して無為なことじゃなくて、かけがえのないものが得られるんだということ。一家はこの旅行のことを、多分一生忘れないんでしょうね。

いやーいい映画だったなーと思ったら、トイストーリー3と脚本の人一緒なんですね。トイストーリーは2まで観て、もういいかな……と思ってたけど、これは3も観なければなるまい。