桐島、部活やめるってよ

見事にキャッチーなタイトルですな。
ずっとこのタイトルが印象に残ってて、でも小説はスルーだったんですが、いつの間にか映画化してしかもかなりおもしろいと勧められたので観てきました、「桐島、部活やめるってよ」。
いや、期待してはいましたがっ!その期待をはるかにこえた名作でした!
DVDが出たら何度も何度も見返したい。構成といい台詞といい無駄が一つもないのが欠点なんじゃないのってくらい、
すみからすみまで大好きな作品です。(以下ネタバレ!)

 

学校のカリスマ的存在である桐島君。バレー部のエースであり、学校一の美人を彼女にしているイケイケ君である。そんな彼がいきなりバレー部やめちゃって、
電話もメールも総ブッチ、まわりがてんやわんやするという、ほんとにそれだけの話。
 そんなのよくある話じゃん。そう、よくある話。よくある話だって深く掘り下げて描けば立派にドラマになるんだなあと、つくづく思わされる映画です。
 桐島が学校に来なくなる金曜日からの様子が、それぞれ違う生徒の目線から、何度も繰り返し描かれるところから始まる、変わった構成。こういう構成の映画って前にも見た気がしますが思い出せません……。小説でいえば、ちょっと違うけど「藪の中」的な描き方でしょうか。
 この手法によって、桐島をめぐる学生たちの人間関係が浮き彫りになってきます。バレー部のリベロはエース不在の重圧にうちのめされます。いくら努力しても天性の素質の前に挫折するしかない彼に、共感をよせるバドミントン部の女子がいる。その子の気持ちをわかってあげたいのにわかってあげられなくて、他人と常に一定の距離から踏み込めなくてもどかしい、親友の少女。
 桐島と付き合っていた女の子は、桐島が自分に一言の相談もなく部活をやめたことに傷つき、まわりをも傷つけてしまいます。彼女の親友は、ふだんから表面的な部分で人の優劣を決めているから、人気者である彼女にそっけなくされると自らのアイデンティティを失ってしまいます。桐島を始点として、みんな誰かを追っかけてて、それが数珠つなぎのように連なって最後のクライマックスにつながっていきます。
 そして、運動も勉強もできて聡明なだけに、本当の意味で自分の居場所を見つけられない少年がいます。最後に映画部の部長とお互いを撮影ごっこして、カメラを向けられて泣き出してしまうその強烈な劣等感、わかる!わかるよ!なにをしても人並以上にできてクールに決めているけれど、逆に何にも熱くなれない彼には物語がないのです。かっこわるくても、負けることが分かっていても、好きなことに一心不乱な人たちが、真の意味でのリア充なんです。ザ・器用貧乏な彼が、この映画の裏の主人公だと思います。
 どの子も大好きなんですがいちいち語ってたら夜があけてしまうので、個人的に好きな部分についていくつか。
 やっぱり吹奏楽部の部長・沢島が一番好きです。映画部と屋上でやり合うとこ最高です!一番好きなものを一番好きな角度でながめながら一番好きなことをする至福感、ここでなきゃダメ的なマイルール、よーくわかります(笑)。そこにデリカシーなく踏み込んでいく映画部!映画部のやってることを遊びと一蹴する沢島のデリカシーのなさ!あと単純に屋上でトランペットを吹く彼女が絵的に美しい。吹奏楽部の音合わせってこうして聞くととても美しいものだったんだなあと。
 あとイケてる人大好きダサい奴にはとことん残酷な超俗物・沙奈ちゃんも最高でした。あれは監督もすごいんだろうけど、女優さんも、まだ高校生でよくここまでリアルな演技ができたと思います。あの年頃の女子特有のあさはかさ、憎ったらしさ、ぞくぞくします。

あの頃の自分がさまざまなキャラクターに少しずつ垣間見えるんです。今の高校生だけじゃなくて、かつて高校生だったみんなが共感する、普遍的な思春期の痛みを、つぶさに描きあげてくださったと思います。人はみんな自分のフィールドでぎりぎりで踏ん張ってて、誰にも本当のところはわかってもらえなくて、誰のことも本当にはわかってあげられなくて、それは学校を卒業しても生きている限り永遠に続いている道で、それでもこの世界で生きていかなければならないという諦観。ラストが静謐で、めちゃくちゃ心に沁みて素敵すぎです。ずるい!

実は既に二回見に行ってしかも同じ友人と連れだって行ったんですが、しばらく二人の間で「おっまたー♪」が流行るのでした。武文くんも大好きです(笑)ただの青春映画に終わらない、非常におもしろい作品なので是非見てみてほしいです。あとちょっとだけゾンビなシーンがあるので苦手な人は心して行くといいと思います。で、結局桐島はどうしちゃったんでしょうね?