めがね

いやー6月はいろいろありました…仕事上でもいろいろあったし、梅雨時はいつも体調が最悪です。雨は好きなんですが。
休みの日に、布団の中で目覚めて、窓の外が雨だったときの幸福感。
そんなこんなで、とにかく出てくる人がほぼめがねという噂は以前から聞いていたので、よしめがね充して癒されよう!と思い立ったわけです、「めがね」
結論からいうと、すごく面白かったです。濃厚でいて、ふわっと軽い。あともたいまさこの存在感はもはや妖怪(ほめてます)。


めがね(3枚組) [DVD]

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お話は、男のユージと犬のコージが営む浜辺の宿に、タエコという女性がバカンスにやってくるところから始まります。
「ここは観光するとことかあるんですか?」というタエコに、そんなものは何もない、ここでは皆一日中、たそがれて暮らすのだと答えるユージ。
呆れるタエコですが、普通そういうの事前に調べてから旅行に来るもんじゃないか。とはいえ、動機が「携帯電話のつながらないところに行きたかった」というくらいだから、結構衝動的な旅だったようです。ユージもタエコもそれなりに古傷をなんやかやと抱えてそうですが、「かもめ食堂」でもそうでしたが、そういう要素を匂わすだけで掘り下げて描かないところは、荻上監督の粋なところだなあと思います。
ユージの宿には他にも、地元の高校教師のハルナと、毎年春に訪れるサクラさんという小母さんが居ます。
サクラさんは謎の人。ヨガの師匠だとかプラハでオペラ教えてるとかいろんな噂があるけど、本当のところは誰も知らないし、知ろうともしません。
タエコは自分のペースをしっかり守って踏み込まれたくない人で、なにか誘われてもしたくないことはしないと自分の意見をはっきり言う人(でも言ったあと少し後悔するように目を泳がせるのがいいなあと思いました)。ハルナもズケズケものを言うし強がっているけど、子供のようにもろいところもあって、この宿に許されに来ている。でもユージとサクラは、それぞれに強烈にマイペースだけど、タエコと違ってひとを受け入れて肯定する強さがある。最初はみんなで仲良く体操をしてワイワイ食事して…っていうのに馴れ合いを感じて拒否反応を示していたタエコも、彼らとのやりとりを通じて、閉じていた殻をちょっとずつ開いていきます。
まあ何がすごいって、確かに日本のどこかなんだけど、どこかまぼろしみたいに浮世離れした草深い田舎を上手く見つけたなあということ。車のナンバープレートまで地名抜けてるし、本当にどこなんだここ!?と思ったら、エンドクレジットによると与論島だそうです。
作中にガチガチの共産主義的コミューンが出てくるけど、近所同士で魚や野菜を分け合ったりするこの宿の生活も原始共産主義といえばそうかもしれないし、サクラさんが期間限定で開く海辺のかきごおり屋は代金をとらない。お客さんはその美味しさに感動した心の分だけ、自分の得意なこと(作った野菜だったり、折り紙だったり、ウクレレで音楽を奏でたり)で返していく。前者と違うところは、ひとをルールでしばりつけようとしないところ。サービスに対して自分の心を形にして返す、というシステムを極限まで単純化したのが貨幣経済(お金はあらゆる可能性を具現化するためのツールだと常々思っている)なんだろうけど、なんとなくそのシステムに慣れすぎてしまっていて、本来の意味を忘れてしまっていたなあと思いました。人にものをあげたり、もらったり、人の作ったものに感動したり、そういった心の震えを精一杯形にして返すという行為の一瞬一瞬が、コミュニケーションの原点であり、「生きる」ということなんだなあと。
そして食事シーンが美味しそうすぎます。かき氷もなんだけど、個人的には茹でたての大きなエビにかぶりつくシーンが一番クるものがある…食べ物の美味そうな作品に駄作はないというセオリーが、ここでも!

でも私は一日中たそがれるというのは地獄だと思うのであまりこの宿に行きたいとは思いませんけどね。