わたしを離さないで

またまたずいぶんとご無沙汰してしまいました。
一人暮らしをはじめたりでバタバタしてて、なかなかブログに手をつけるまで至らず…
読んでくださってる方には申し訳ないです。
というか、このブログ、地味に知り合いにバレてるみたいなんですが。穴を掘って入りたい!まあ、こんな調子でマイペースにいくんで、皆さんもふらふらっと暇な時に見てやってくださるとありがたいです。


さて、今回は久々に映画感想の投下です。(相当なネタバレがあるので、未見の方は注意です。)
前々から見たいとは思っていたのですが、友人の感想に触発されて見に行ってきました、「わたしを離さないで」。

カズオ・イシグロという小説家の作品の映画化、ということですが、私は寡聞にして知りませんでした…(←文学部…)。しかし、これは是非原作を読んでみたい!と思わされる映画でした。というよりむしろ、原作を読んでから見るべきだったのかもしれません。どうしても映像化となると、細かい設定や経過は表現上省略されてしまうので。
物語は、イギリスの片田舎の、ヘイルシャムという学校から始まります。このヘイルシャム、荒野の中にたたずむ瀟洒な寄宿校といった趣です。そこには厳格な校長先生をはじめとする数人の教師たちと、幼年から中学生くらいまでの年代の子供たちが住んでいます。
その正体をずばり言ってしまうと、この学校は臓器提供用のドナーの育成施設です。ここにいる子供たちは、(映画だと断片的な情報しか出てこないので想像するしかないのですが)おそらくクローン人間で、成人すると臓器移植のためにその肉体を切り取られ、死んでいく運命にあります。彼らには人権なんてものはありません。人間の延命のためにだけ生かされ、そのために殺される、医療用のパーツでしかないのです。
もうこの設定だけでありえないです。なんだこの生命倫理のかけらもない世界は…って感じなんですが、主人公をはじめとするクローン人間たちは、その事実を特に反発も感じず受け入れて、淡々とそのときを待って生きているように見えます。いくらなんでも普通の人間ならあまりの理不尽さに暴動を起こすと思うんですが、何せSFですので、強力な洗脳教育かなんかその辺のせいなんだろうと自分を納得させて観ました。
さて、あらすじです。主人公キャシーは、子供のころから、ずっとトミーという男の子が好きでした。しかしその恋は、親友のルースに裏切られて、トミーはルースと付き合うようになってしまいます。でも、トミーは本当はキャシーが好きなんだ…という描写が端々にあります。もうなんかトミーが煮え切らないのが悪いんじゃないの?!って感じなんですが、実際恋愛なんてそんなもんなんですかね。とにかく、最終的にキャシーがトミーと付き合うようになるのは、大人になったあと、臓器提供が始まって、もう自分たちの人生の限界が見え始める頃でした。
トミーはいいます。自分たちがヘイルシャム校でさせられた絵画などの芸術行為、あれは、クローン人間の魂の質を探るためのものじゃないのか?もしお互いに本当に愛し合うクローン人間がいたら、臓器提供に猶予を図られるといううわさがある、その愛が魂からのものか確かめるために、あの芸術作品があるんじゃないのか?
二人はそのうわさが本当のものか確かめるために、かつての校長先生に会いにいくのですが…。


もうね、最後の最後までものすごく悲しい映画でした。ルースがキャシーからトミーを奪ったのは、何もトミーのことを本当に好きだったからじゃない。親友のキャシーが自分よりほかの子に夢中なのが許せなかった、そういう子供らしい嫉妬の裏返しの行為。ルースは思春期をすぎるまでその段階を乗り越えられずにいたのです。世間から隔絶された場所で、親の愛情も知らず、偏った教育しか受けられずに育つクローンの子供たちは、大人になってもどこか頼りなく、いびつです。それだけに、その感情のひたむきさ、濃厚さがひしひしと胸を刺す映画でした。役者さんもそれぞれのキャラクタによく合った、良い演技でした。(しかしキャシー役のキャリー・マリガン、子役と顔そっくりですね…一瞬子役からの切り替わりがわかりませんでした)
映像はアースカラーを基調としていて、やさしく柔らかな印象ですが、それだけにルースが[終了」してしまうシーンは鮮やかな赤色が心に深く刺さりました。音楽も、透徹した悲しみに彩られていて美しい。
でもクローンたちがほかの人間のために、なんともない臓器を次々と切り取られ、徐々に弱って死んでしまうくだりは、フィクションとは言え許せなかったですね。そんな社会は間違っても到来してほしくないと思いました、まあ絶対到来しないだろうけど。

できれば、原作を読んでもう一度見に行きたいと思う作品です。なんとも、言葉に表しにくい余韻の残る、でも良い映画でした。しかし、原作本、なかなか売ってないですね…。せっかく映画化したんだから、本屋で平積みにくらいしといて欲しいです。